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フェリックスよりロアーヌ王ミカエルへの書簡
親愛なる伯父上。
内密のマスカレイド探索は今も続けておりますが、東方の大陸をのぞくほぼ全域を歩いて、一切の手がかりもないというのはどういうことなのかと考えておりました。そして先ごろポドールイのレオニード城に立ち寄り、はじめての手がかりを得たように思います。「思います」というのは、情報として具体的とは言えないからでありますが。
城では伯爵にはお目にかかれませんでした。そして側近の方が言われるには、「伯爵は、この部屋から一歩も出てこられないし、客人にもお会いにならないがたしかにおいでになり」、ドア越しに指示を頂いて領地の管理は続いているとのことです。
奇妙ではありませんか? 伯爵は、太陽の下を歩いてもそれで灰になるような方ではなかったと存じます。
一体いつから篭っておられるのかと、私は尋ねました。答えは
「ほぼ20年前から」
その年の春、伯爵のいる玉座の脇に、いつものように聖杯が置かれていましたが、そこへ不意に血が滴り落ちてきたといいます。側近の方はこれを目撃し、伯爵と違って腰を抜かしそうに驚かれました。伯爵はというと、その血をじっと見詰め、何か呟きながら聖杯を握り、やがて穏やかな顔がにわかに厳しくなったのだそうです。そうして、その夜にはドアの向こうへ篭ってしまわれたそうです。
伯父上、マスカレイドが、厳重に鍵のかかった箱から消失したのと同時期です!
その箱の一部が、その部屋に火の気もないのに焼け焦げて穴があいていた事実を思い出し、マスカレイドは何者かに「盗まれたのではない」かも知れない、という考えが浮かびました。
聖杯は聖王の血を受けたことがあり、そのとき使われたナイフとはマスカレイドであったと、聖王遺物関連の書物にあります。もし聖杯が何事かの異変に反応し、伯爵をも動かすほどの意思表示をしたのならば、聖杯といわば対をなすマスカレイドも何らかの「役目」を果たすべく、"自らロアーヌを去った"とは、考えられないでしょうか。
残念ながら、以上はやはり推論に過ぎません。ですが、「剣が意思を持つ」という一見突飛な考えには実は根拠がないわけではありません。妹アンゼリカが解読中の本には、神々の意思を注いだ剣や槍もあると書かれているそうです。最初にその話を聞いたとき、ありえない、と笑い飛ばしたところ、頑固に言い伝えられている事象の中には、真実が混じっていることもあると叱りつけられました。
私は差し当たって、このまま陸路をファルスに向かいます。ミュルス近海の嵐がおさまり、義勇軍が早くこちらへ着けるよう、祈っております。
――フェリックス・ノール