解読2――かつての世界
《この世界には、いくつかの違う種族が住んでいる。 歴史的にもっとも古いのは最高位の賢者集団であり、強力な術と多言語をあやつる能力と未来を予見する目を備えている。はるか昔にこの世界へ降り立ったかれらは、多数の隕石衝突と火山噴火で荒れた土地を緑豊かに甦らせた。そしてかれらは憎みあうことも騙すこともなく、ただ存在していることが祝福といえる種族であり、自由に時空を行き来し、それゆえかれらは国などというものを持つ必要がなく、欲することもない。 本来ならば不死に近い寿命があったが、もし死ぬことがあると天空に昇って星の光となった。神と呼ばれて当然の力と知恵を備えていたが、かれらはまた優しく謙虚でもあったせいか、好んで星の民と自称した。
かれらと別に半神と呼ばれる種族がある。半神は神々の種族のうち、星を観察する者が集まって定住し、神々と分かれた一族から始まった。多くが小柄で神官と巫女になる者が大半である。稀にこの種族にしては腕力とスタミナに恵まれた者がいて、日頃は農地などにいるが時には星の民を守るべく、特別な霊力を注いだ武器を帯び、「星の民の騎士」を自称した。
竜族は大きく火・風・土・水のエレメントの別に生息地も違い、かつては腐肉を食らい、悪臭の漂う暗がりに潜んでいた。しかし大地が潤い、美しい姿を取り戻すと、倦み果てていた竜族は大地を甦らせた星の民に敬意を表し、破壊者との戦いには必ず味方すると誓ったという。竜族は誇り高く理知的で、厳しい自然を好んでそういう地域に住まう。半神とはもっとも気が合うところがあり、友好関係にある。
半神のさらに新たな種族はすぐれた適応能力があり、神々の不死の性質を失うかわりに能力の多様性を備えるようになった。これが人間と言われる種族である。しかし人間は無一物から出発したのではなくて、はじめから、父祖である神々の知恵を借り、半神の力を支えとすることができた。
巨人族は、独自の国は持たず人間の町や村の近くで平和に暮らしている。凶暴そうに見えるが、その心根はやさしく、穀物や蜂蜜しか食さない。火山が噴火したり洪水が起きたりすると、巨人族は率先して村や町へ行き、人々の助けになってやり、人々も巨人たちのために広大な畑地を確保し、共栄の道を選んだ。
人々は星の民を最高賢者、もしくは神と呼んでその助言には必ず従い、半神とは混血が進んで人口は増え、自然に集落が国家を形成した。破壊神はこれ以上の繁栄を許すまいと、このとき再び襲撃を開始した》
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親愛なるルーシエン。
まだ先が長いようなので、断片ですが解読文書を送ります。ロアーヌ王陛下にお見せしているのと同一のうつしで、ルーシエンに送ることについて陛下の許可はとってありますからご安心を。
破壊神の名がネメシスというのは間違いないと思います。それから、あなたが気にしているサイクロプスとこの文書の巨人族は、やはり関係があると思っています。その証拠が出てきたらすぐにお知らせします。
――アンゼリカ
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