The noble aileron


長年空位だったメッサーナ国王の座に就いたのは、クラウディウス夫妻の第二子である彼らの長女、ガラドリエルだった。ミューズ夫人の母親、あるいは祖父の遺伝か、金と銀が入り混じったように輝く髪の毛が大層美しく、夫人は伝承のエルフの妃の名を娘に付けたが、メッサーナ建国以来初めて女性の王となった彼女と、黄金の森の妃の違いは、人とエルフであることくらいだと言われるほど彼女は美しく賢明で礼儀正しく、誇り高い女性であり、民から非常に愛された。

 旧ファルスにあるゲートへ向かうアリエンが、王から非公式な案内を受けて登城したのは、父親が娘の願いを聞き入れた数日後のことである。王の部屋には母親と同じ名前の赤いバラが飾られ、彼女は人払いをして、室内には姉妹の他は誰もいない。輝く頭に戴く黄金の花を編んだような冠は、母親と幼馴染であり、王宮に近い工房の職人が献上したもので、非常に美しく、軽量でもあることから、彼女は公式の場でメッサーナの王冠を戴く必要がない場合は、この黄金の花冠を愛したのだ。
4つ年上の長姉は丈高く、それは厳かな、崇めるべき尊厳を兼ね備えた美しさで、アリエンは自分などが何年経っても、この姉のようにはなれないと思っている。せいぜい、もう少しで彼女に背丈が追いつくところくらいなものなのだ。

 「そなたの決断については、わらわも耳にしております」
 両親は娘の宿命を受け入れることにしたが、長兄と姉妹は、危険極まりない道に彼女を進ませたくなかった。年子の兄だけは、優れた武功を立てる宿命を負った妹を能天気に羨ましがったが、彼女の宿命と両親の決断により、幸福に満ち溢れたクラウディウス家に、初めて重く暗い影が圧し掛かることになったのだ。
アリエンは、女王に咎められるかと思い、上目遣いに窓辺に立つ長姉を見る。
 「宿命を負う者たちには、準備が整えばわらわから贈り物をしようと思っております。しかしそなたはわらわの妹、わらわは王としてではなく、姉としてそなたに授けるものがあります」

 彼女が白い手に持つ宝石箱を開くと、翼を広げた鷲を模したブローチを手に取って、妹の胸元に着けた。銀に輝く鷲は、鋭い鉤爪で宝玉をしっかりと掴むように緑の石が填められている。鷲はこの国で力と知恵の象徴として愛され、クラウディウスの家紋もまた、このブローチと同じく翼を広げた鷲なのだ。
 「これはわらわが即位した折に、母上から授けられたものです。そなたはこれを希望の証として身に帯び、また民が誇るクレメンス・クラウディウスの血を引くことを忘れず、使命を果たしなさい」
 「は…はい」
 アリエンの顔は喜びで輝き、その明るい瞳はまさにその名が示すとおり、太陽の船を航海させる炎の乙女さながらであった。

 「そしてまたそなたの赴くところ、わらわも共にあるのです」

 厳かな女王も、妹の決断と宿命を苦悩と共に受け入れた。王宮で国や民を守る重荷を望んで背負った彼女は、せめて心の一部だけでも、妹と苦難を共にし、輝かしい功を挙げて無事に戻ることを願ったのだ。

-end-


Many thanks:
Lilac Gardenのりらさんから、『赤い星、輝くとき』の続編のような一篇を、なんとアップした翌日にいただきました。
タイトルもつけて良いということでしたので、高貴なる翼の一族をイメージし、このようにしました。厳かな女王の姉としての一面が垣間見れる、珍しい挿話で、アリエンの名前の意味もここで明らかにされています。
この作品へのご感想がありましたら、掲示板やりらさんへ直接よろしくお願いします。
byサリュ

The noble aileron 初出04/Sep./06@sullen loannee